医療機器のフォトエッチング加工|材質選定と加工事例
人の体液に含まれる塩化物イオンの濃度は約0.9%。金属にとっては海水に近い腐食環境であり、医療機器の金属部品にSUS316Lが標準的に選ばれるのはこのためです。
本記事では、医療機器の精密部品をフォトエッチングで製作する際の工法の適性・材質選定・品質要求を、カテーテル用部品などの実際の加工事例とあわせて解説します。フォトエッチング加工歴27年・1983年創業のソメヤの現場知見に基づく内容です。
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医療機器の部品加工にフォトエッチングが選ばれる理由
フォトエッチング(薬品で金属を溶かして形状を作る加工法)は、医療機器の精密部品と相性のよい工法です。理由は大きく3つあります。
バリと加工応力が出ない
プレスや切削と異なり、フォトエッチングは刃物や金型で金属に力を加えません。そのため切断面にバリ(加工時に出る金属のかえり)が発生せず、材料に残留応力もかかりません。
体内や血液に触れる可能性のある部品では、バリの脱落は重大なリスクになります。バリ取り工程そのものを省略できるエッチングは、医療分野で採用されやすい工法です。仕組みの詳細はフォトエッチング技術紹介ページで解説しています。
板厚0.005mmからの微細加工に対応できる
医療機器の部品は小型化・精密化が進んでおり、板厚0.1mm以下の極薄材や、1mm前後の微細部品が珍しくありません。フォトエッチングは板厚0.005mm〜1.5mmのステンレスに対応し、寸法公差は±0.02mm〜を実現できます。
工法全体の基礎知識は、フォトエッチングとは|仕組み・加工事例・対応材質の解説記事をご覧ください。
試作1個からの小ロットに向く
医療分野の依頼は、研究開発段階の試作や特定装置向けの部品など、小ロット案件が多い傾向があります。量産を前提とする加工会社では受けにくい領域です。
フォトエッチングは金型が不要で、版下データ(フォトマスク)だけで形状を作れるため、試作1個から数万個の量産まで同じ品質で対応できます。一方、使い捨て(ディスポーザブル)部品のような大ロット案件にも適しており、ロットの大小どちらにも対応しやすい工法です。
医療機器の材質選定|SUS316Lが標準とされる3つの理由
医療機器の金属部品で最も採用が多い材質はSUS316Lです。現場でも「肌や体液に触れる部品はSUS316系」という指定が大半を占めます。その理由は、材料の成分に明確な根拠があります。
理由1: モリブデン添加で塩化物への耐食性が高い
SUS316Lは、SUS304の成分に加えてモリブデン(Mo)を約2〜3%含むステンレス鋼です。モリブデンは塩化物イオンによる孔食(表面に小さな穴が開く腐食)への耐性を大幅に高めます。
冒頭で触れたとおり、体液や血液の塩化物イオン濃度は約0.9%と生理食塩水に相当します。SUS304では孔食が起こり得る環境のため、体液・薬液・消毒液に触れる部品ではモリブデンを含むSUS316系が選ばれます。
理由2: 低炭素で粒界腐食が起こりにくい
末尾の「L」はLow Carbon(低炭素)の意味で、炭素含有量を0.03%以下に抑えています。炭素が多いステンレスは、溶接や熱処理の際に結晶粒界にクロム炭化物が析出し、粒界腐食(結晶の境目から進む腐食)が起こりやすくなります。
医療機器は溶接・電解研磨・滅菌処理など熱や薬品にさらされる工程が多いため、低炭素で腐食リスクの少ない316Lが標準になっています。
理由3: 外科インプラント用の国際規格に採用されている
外科インプラント用金属材料の国際規格 ISO 5832-1 は、316L系組成のステンレス鋼を規定しています。体内に埋め込む機器の標準材料として国際的な実績があることが、医療分野全体でSUS316Lが「迷ったらこれ」という位置付けになっている背景です。
| 項目 | SUS304 | SUS316 | SUS316L |
|---|---|---|---|
| 主な成分 | 18Cr-8Ni | 18Cr-12Ni-Mo | 18Cr-12Ni-Mo(低炭素) |
| モリブデン | なし | 約2〜3% | 約2〜3% |
| 炭素量 | 0.08%以下 | 0.08%以下 | 0.03%以下 |
| 塩化物への耐食性 | △ | ◎ | ◎ |
| 粒界腐食への耐性 | △ | ○ | ◎ |
| 医療分野での採用 | 非接液部など限定的 | 多い | 標準(接液・接肌部品) |
表のとおり、耐食性と加工後の安定性の両面で316Lが優位です。SUS316を含む対応材質と板厚範囲の一覧は対応スペック・素材ページに掲載しています。
チタンなど他の材質を検討する場合の注意点
医療分野ではチタンも代表的な材料ですが、フォトエッチングでは材質ごとに専用のエッチング液(腐食液)が必要で、どの材質を加工できるかは加工会社の薬品ラインによって異なります。チタンやモリブデンは対応できる会社が限られる材質です。
ニッケルはステンレスと近い薬品体系で加工できるため、対応可能な会社が比較的多くあります。材質選定の段階でお悩みでしたら、内容にもよりますので、まずはお問い合わせにてご相談ください。代替材質のご提案も含めて検討できます。
医療分野のフォトエッチング加工事例
ここからは、実際にご依頼いただいた医療関連部品の加工事例を紹介します。そのほかの加工事例は加工事例一覧でご覧いただけます。
カテーテル用の合金製部品(約1mmの微細エッチング)

カテーテル(体内に挿入する医療用の細い管)に使われる、約1mmサイズの合金製部品の事例です。プレス加工会社からのご依頼で、プレスでは困難な微細形状をエッチングで製作しました。材質はお客様のご指定による合金で、詳細は非公開のご依頼です。
写真のように、部品は帯材(フープ材)の縁に細いつなぎ部を残して連続配置しています。1mm程度の部品を1個ずつ扱うと搬送も検査も困難なため、帯につながった状態で納品し、お客様の工程で切り離す設計です。このように微細部品では「どうつなぎを残すか」が品質と使いやすさを左右します。
同様の微細加工は、板厚0.1mmの端子部品の加工事例や線径0.2mmのハニカムメッシュの加工事例でも紹介しています。
医療部品を依頼するときのポイントと品質要求
認証・品質管理の考え方
医療機器を市場に出すには、薬機法に基づく製造販売業の許可や品目ごとの承認・認証が必要です。ただしこれは完成品メーカー側の要件であり、部品加工を担うサプライヤーには、発注元の品質基準に沿った加工・検査・記録が求められます。
実際の医療案件も、こうした認証を持つメーカーからの依頼を受け、要求される品質基準に沿って対応する形が一般的です。材質証明書(ミルシート)の添付やロット管理などのトレーサビリティ要求には、案件ごとに発注元の基準に合わせて対応します。
依頼時に伝えるとスムーズな4つの情報

見積り・製作をスムーズに進めるには、図面やデータに次の4点が揃っていることが重要です。これは日々の見積り業務で確認に時間がかかりやすい項目でもあります。
- 材質: SUS316L指定か、SUS304で足りるかで価格・納期が変わります
- 板厚: エッチングは板厚が孔径・線幅の限界を決めます(最小孔径は板厚の150%〜が目安)
- 寸法: 外形と穴位置。データが等倍で描かれているかも確認ポイントです
- 公差: 必要な精度。±0.02mm〜の範囲で板厚・材質により変わります
正式な図面がなくても、寸法と板厚がわかる手描きスケッチから見積りできる場合があります。ロット・納期の目安は対応スペックページのロット・納期一覧を、そのほかの疑問はよくある質問ページをご覧ください。
医療関連部品の試作・量産をご検討中でしたら、図面をご用意のうえお問い合わせフォームからご相談ください。試作は1個から、最短3営業日で対応できる場合があります。
医療機器のフォトエッチングに関するよくあるご質問
Q1. 医療機器の部品加工に、加工会社側の認証は必要ですか?
薬機法上の許可・認証が必要なのは医療機器の製造販売業者(完成品メーカー)です。部品加工会社はサプライヤーとして、発注元が定める品質基準・検査基準に沿って対応します。必要な品質記録や材質証明書は案件ごとにご相談ください。
Q2. 試作1個だけでも依頼できますか?
フォトエッチングは金型不要のため、試作1個からご依頼いただけます。納期は最短3営業日〜が目安です。研究開発段階の形状検討にもご利用いただけます。
Q3. SUS316Lはどのくらいの板厚まで加工できますか?
ステンレス鋼は板厚0.005mm〜1.5mmまで対応しています。最大加工サイズは400mm×600mmです。材料は取り寄せを含めて手配しますので、板厚・数量とあわせてご相談ください。
Q4. どのくらい細かい穴まで開けられますか?
最小孔径は板厚の150%〜が目安です。例えば板厚0.1mmなら孔径0.15mm〜が加工可能です。板厚が薄いほど微細な穴を開けられるため、フィルター用途では板厚選定から一緒に検討することをおすすめします。
Q5. 正式な図面がなくても相談できますか?
可能です。寸法・板厚・材質がわかれば、手描きのスケッチからでも見積りできます。簡単な形状であれば加工用データの作成から対応しますので、まずは現物やスケッチをお送りください。
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